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令和7年税制改正大綱で、退職手当等老齢一時金を受け取るときの税制が改正される見込みとなりました。2つ以上の退職金を受け取るときの、控除期間の重複期間リセットが4年以内から9年以内に延長されます。
「何のこと?」という感じですが、自営業者や会社経営者にとっては影響が大きい改正でもありますので、最新の情報をお届けします。
この記事は平成4年の1月時点で書いた「イデコと小規模企業共済を一時金で受け取るときの注意点」に最新情報(令和7年1月時点)を取り込んだ記事となります。
個人事業主の退職金といえばイデコと小規模企業共済です。
どちらも掛金は所得控除を受けられ、受取りの時には一時金であれば退職所得控除、年金で受け取れば公的年金控除を受けられます。
イデコは運用益も所得控除を受けられるので3つの税制優遇がある制度、と私もセミナーでいつもお伝えしています。
しかし、所得控除が受けられるイコール税金がかからないわけではありません。
イデコも小規模企業共済も受取り方法は一時金、年金、一時金と年金の併用の3種類です。
イデコは現制度では60歳以降75歳のお誕生日の前々日までに受取りを開始します。
掛金の積み立てができる加入可能年齢は厚生年金に加入しているか、国民年金に任意加入していれば65歳未満までとまります。
さて、このような細かい話をしているのかというと、イデコも小規模企業共済も一時金で受け取るときには「退職所得控除」という勤続年数に応じた控除額を受けることができるからです。ここでいう控除額とは、退職金の税金を計算をするときに受取額から差し引ける金額、すなわち非課税になる金額です。
個人事業主の勤続年数はイデコは掛金を拠出している通算加入者等期間で、小規模企業共済は納付月数でで計算します。
勤続年数の計算は10年2ヶ月なら11年、20年6ヶ月なら21年というように、1年未満の月数は繰上げます。
勤続年数により受けられる退職所得控除は2025年1月現在で以下の通りです。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 最低80万円 |
20年超 | 70万円×(勤続年数-20年)+800万円 |
もしイデコに月2万円ずつ掛金を拠出して20年後60歳の時に残高が600万円(運用益込み)
同じく小規模企業共済に月2万円ずつ掛金を拠出して20年後の60歳の時合計額が合計額が480万円だったとします。
小規模企業共済の共済金は受け取り理由によって受取額が異なりますが、60歳時点で掛金相当額を受け取ったと仮定します。
①イデコと共済金を同時期に一時金で受け取った場合
勤続年数は20年:退職所得控除は800万円
イデコ:600万円は非課税
小規模企業共済:(480万円-200万円(退職所得控除の残額))×1/2=120万円
退職金は退職所得控除後の金額の1/2に所得税と住民税がかかります。
所得税(5%とした場合):120万円×5%=6万円
復興所得税:6万円×2.1%=1,260円
住民税:120万円×10%=12万円
合計税額:181,260円
となります。
イデコとあわせた受取額は
600万円+480万円-18.126万円=1061.874円
約1060万円です
令和7年12月31日までにイデコの一部または全部を一時金で受け取った人の場合です。
前年以前4年内(確定拠出年金の老齢給付金として支給される一時金の支払を受けた年分は前年以前14年内)に他の退職金がある場合は、本年分の退職手当等の勤続期間と前の退職金の勤続期間との重複期間分の退職所得控除を差し引きます。
つまり、イデコに40歳から60歳、小規模企業共済に40歳から65歳まで加入した場合、イデコを受け取ってから5年以上たって小規模企業共済を受け取れば、勤続年数をもとにした非課税枠はリセットされます。
イデコを一時金で受け取ったときの非課税枠は勤続20年で400万円、5年以上間をあけて、65歳で小規模企業共済を受け取れば、非課税期間は25年間となり1150万円の控除を受けられます。
②60歳でイデコを65歳以降に小規模企業共済を受け取った場合
イデコ:40歳から60歳まで加入 20年
小規模企業共済:40歳から65歳まで加入 25年
イデコ:600万円は非課税
小規模企業共済:掛金600万円 600万円の受取額だった場合
イデコを受け取ってから5年あけて受け取った場合(5年ルール適用で退職所得控除リセット)
小規模共済の退職所得控除:勤続年数25年間で計算=1150万円
共済金600万円<1150万円 非課税
イデコとあわせた受取額は600万円+600万円=1,200万円
1,200万円を非課税で受け取ることができます。
イデコを先に受け取ってその後に小規模企業共済や中小企業退職金共済など退職金を受け取る場合は、受取り時期を5年以上あけることで、退職所得控除がリセットされます。
逆に5年以内に両方を受け取ると2回の受取額を合算した金額から退職所得控除を差し引くため、事例①のように所得税と住民税が課せられます。
受け取り方の工夫で大きく税金がちがう場合もありますので、ライフプランに合わせた計画的な受取り方法をお勧めします。
現在はイデコの一時金と小規模企業共済の受取時期を5年以上あければ勤続年数の数え方をリセットできるのですが、令和8年1月1日以降にイデコを一時金で受け取った場合、小規模企業共済の受け取りは10年以上あけないとリセットできなくなってしまいます。
たとえば、60歳でイデコを受け取っても小規模企業共済の一時金を受け取るのは70歳以降としないと勤続年数は60歳からカウントすることになります。
➂令和8年1月1日以降にイデコを受け取り10年後に小規模企業共済を受け取った場合
イデコ:40歳から60歳まで加入 20年
小規模企業共済:40歳から70歳まで加入 30年
イデコ:600万円は非課税
小規模企業共済:掛金720万円 720万円の受取額だった場合
イデコを受け取ってから10年あけて受け取った場合(10年ルール適用で退職所得控除リセット)
小規模共済の退職所得控除:勤続年数30年間で計算=1500万円
共済金720万円<1500万円 非課税
イデコとあわせた受取額は600万円+720万円=1320万円
1320万円を非課税で受け取ることができます。
ところが、小規模共済を先に受け取ってその後イデコを受け取る場合は5年ルールではなく19年ルール(2022年4月1日より)が適用されます。
たとえば60歳で小規模企業共済を受け取ってしまい、もし退職所得控除を使い果たしてしまうとイデコの受取りは80歳以降にならないと退職所得控除がリセットされません。
小規模企業共済など退職金を一時金で先に受け取ってイデコを残し、どちらも退職所得控除を満額使うのは難しそうです。
個人事業主は定年はないとはいえ、何歳まで収入を持って働けるかはなかなか難しいところです。
65歳、70歳、75歳とずっと働けたらこんなにうれしいことはありませんが、仕事があっての物種です。
老後資金もできれば早く受け取りたいと思う人もいるでしょう。
前述のイデコや小規模共済といった複数の退職金の受取り時期に関しては定年が決まっている会社員より融通が利きます。
会社員は定年が60歳だとイデコを先に受け取るのは難しいですよね。
そこで、個人事業主の受取り方法のポイント
①60歳の時点:退職所得控除の範囲内で一時金での受取りを検討する
②残りは金額に応じて年金で受け取る方法を検討。60代前半は国民年金や厚生年金は原則受け取れませんので、公的年金控除額の範囲内で受け取るなど。一時金と年金に分けて受け取ることで、税負担を軽減できる可能性を探る。
③退職所得控除を超えて高額な年金が残る場合は、国民年金の繰下げ受給も検討してみる。
1ヶ月繰下げると0.7%受給額が増える。70歳まで繰下げると42%増えます。
2022年4月以降は75歳まで繰下げができるようになります。75歳まで繰下げると84%年金額が増えます。
④イデコ受取り後10年(令和7年中受取は5年)たってから小規模企業共済を受け取る
税金に視点をおいた受取り方法案を中心に考えてみましたが、実際には公的年金額やその他の個人年金、企業年金などにより税金だけでなく社会保険料が増えたり、医療費や介護保険利用料の自己負担額が3割負担になったり、高額療養費の自己負担額が上がったりと、さまざまな絡みが出てきます。
本当に年金と退職金の受取り方法は一筋縄ではいきません。
弊社では個人事業主の方だけでなく、会社員の退職金の受け取り方、企業型DCやイデコ、小規模企業共済、中退共といった退職金全般の受け取り方を早期退職も含めて、老後のライフプランをよくお聞きしながらご一緒に考えます。
ご相談をご希望の方は→その他ご相談(ライフリタイアメントプラン)
をご覧ください。
この記事は2025年1月の法律・情報をもとに作成しています。
税制や社会保険については、最新の情報をご確認ください。